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はじめに
脳卒中や脳性麻痺などの上位運動ニューロン損傷による痙縮筋を有する対象者に対して,これまで筋力増強運動は軽視され,むしろ禁忌と考えられてきた.それには歴史的にいくつかの理由があるが,その1つは,筋力低下(運動麻痺)は痙縮のある拮抗筋の対抗によるものであるという捉え方であり,そのため痙縮を減少させることに主眼がおかれてきた1).他方では,強い努力により痙縮が増大し,異常な連合反応を引き起こしてしまうという懸念があり,最大抵抗運動などの運動は,上位運動ニューロン損傷者には用いるべきではないと考えられてきた1).また,末梢性麻痺は量的変化であるが,中枢性麻痺は質的変化であり2),上位運動ニューロン損傷者に対しては筋力テストすらも不適切と極端に考えられてきた面がある.
近年,日常的な運動や活動に及ぼす機能障害の影響として,どれほど痙縮が重要であるのか,痙縮によって巧緻性や筋力が低下するのか,努力を伴う運動によって痙縮が悪化するのかという点について,徐々に新しい知見が集積されつつある.そして,痙縮を有する対象者に対する筋力増強運動に関する質の高い介入研究も増え,その効果が検証されつつあり,脳卒中者および脳性麻痺者に対する筋力増強運動に関する系統的総説3~10)も報告されてきている.その結果,ガイドライン11,12)においても,痙縮筋に対する筋力増強運動が痙縮を強めるというエビデンスはなく,筋力を向上させることに加えて,粗大運動能力の改善や歩行に関連した指標の改善が得られることが記載されるまでになった.
本稿においては,近年の科学的な知見や背景理論の発展に基づいた上位運動ニューロン損傷による機能障害の捉え方と,脳卒中者と脳性麻痺者を対象とした痙縮筋に対する筋力増強運動の効果について,国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF)13)の構成要素別に解説する.
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