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Key Questions
Q1:触法精神障害者の処遇の流れとは?
Q2:触法精神障害者にOTがかかわる強みとは?
Q3:矯正施設における新たな処遇の動きとは?
はじめに
最新の精神科作業療法のフィールドを踏まえた本特集において,触法精神障害者の理解と支援に関する項が設定されたことに,筆者は,率直に嬉しく,有り難い気持ちを抱いた.2005年(平成17年)7月に施行された「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(以下,医療観察法)により,OTは指定医療機関(入院・通院)の多職種チームの一員として,司法精神科作業療法を実践してきた.そして,この約20年間,司法領域における相次ぐ法改正とともに,OTの活躍する場は医療観察法医療にとどまらず,拡大してきた.近年は,刑務所等の矯正施設にOTが常勤雇用されるようになり,今後も拡充される方向にある.筆者は,これからの20年間,司法領域の特に矯正施設の取り組みが大きく変動していくと考えている.
筆者は,精神科病院でのOTの実務経験を経て,法務省に入職し,保護観察所の社会復帰調整官・保護観察官として対象者の地域生活支援に従事してきた.そして今年度からは,刑務所の刑務官として,受刑者の出所後の地域生活を見据えた支援を行っている.本稿で定義する触法精神障害者は,触法行為により精神科病院に措置入院となった方,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った医療観察法対象者,犯罪行為により矯正施設に入所となった受刑者や保護観察に付された精神障害者等である.これら司法領域における触法精神障害者の理解と支援について,多くのOTが関心をもち,より積極的に参画してほしいと願っている.
後述するように,適用される法制度の目的や仕組みの違いにより,触法精神障害者の処遇の違いはあるが,その方の基本的な理解と支援方法に違いはない.これまで,筆者は触法精神障害者の理解に悩み,自己の気持ちが揺さぶられ,結果的に支援がうまくいかなかった経験を幾度もしている.しかし,どのような立場のときも,一人の人を理解しようと考え抜く個別支援の原則と健康的な部分に着目する作業療法の考え方を大切にしてきた.触法精神障害者の支援において,作業療法の視点は大いに役立つ.そして,正確な評価に基づく個別支援の実践が,所属している組織内外の信頼基盤となり,結果的に多くの対象者を支援する連携体制の構築につながってきたと感じている.そうだとすると,やはり,正確な評価技術の研鑽とともに個別支援の実践を地道に継続するしかない.
本稿では,触法精神障害者の処遇の流れを確認し,筆者の触法精神障害者への個別支援の経験から,司法領域の作業療法の意義等を論じたい.そして現在,刑務所において準備が進められている個別支援の充実・強化である拘禁刑の創設にも触れて,私見を展開する.本稿が触法精神障害者の支援に参画するOTの後押しになれば幸甚である.
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