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はじめに
わが国の脳卒中リハにおける作業療法は,急性期から回復期においては医療の枠組みの中で提供される1).われわれは医師の指示のもと,一般的には医学モデルに準じ,リハを促進する薬物治療ならびに医学的全身管理の徹底のもと,他職種と共同して最大限の機能改善,能力向上を目標としたリハを提供し,家庭や社会への復帰を実現している.
しかし現実には,脳卒中発症後6カ月経過した時点で50%の患者に運動麻痺が残存するとされ2),生活能力や社会復帰が障害されている要因を機能障害に求める医学モデルだけでは脳卒中リハは成立しない.現在ではICFモデルや各作業理論3)にあるようにリハの第一の目標は中断された生活や失った役割を取り戻すことであり,代償手段や残存能力の強化により,障害はあっても新しい役割に生きがいを感じる新しい価値観の転換を図り,社会復帰を実現するモデルが用いられている.これら還元論的医学モデルからの脱却は現在の作業療法の強い方向性となっているが4),一方で存在する中枢神経疾患の機能障害への治療努力を軽視する傾向には疑問や批判がある5).
これまでもOTを含むリハ専門家は,患者の「治りたい」という強い希望に応えるべく機能改善の探求を継続してきた.これらは霊長類を用いた実験で明らかになった脳の可塑性の事実から始まり,constraint-induced movement therapyが,従来機能改善は得られないとされた慢性期の脳卒中患者で画期的な成果を示し6),また片麻痺上肢robotic therapy7),経頭蓋反復磁気刺激8)や神経筋電気刺激9)も同様に機能改善を促進しできることを,科学的根拠をもって示してきた.さらに脳イメージング機材や電気生理学的手法を用いた検証により,ヒトでの明らかな脳の可塑的変化も実証されている10).医学,生理学,神経学に代表されるような還元論的,科学的思考や方法はリハに大きく貢献している.
促通反復療法は,これまで明らかになった運動機能改善を伴う脳の可塑的な変化を最大限実現するための方法論に基づいた治療法であり,運動麻痺の機能的な改善を目指す革新的な治療法である11).OTがこの治療法を手にすることは,麻痺側上肢の機能改善のみならず,麻痺側上肢の機能と実生活での使用を相互に結びつけ,麻痺側上肢に新たな役割をもたせることが容易になり,脳卒中リハを大きく発展させ得ると期待される.
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