- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
■臨床の視点
▲慢性疼痛に伴う抑うつや不安障害を引き起こす機序は何か?
神経障害性疼痛に代表される慢性疼痛は抑うつや不安などの不快情動を引き起こすが,その機序は明らかにされていない1)。慢性疼痛が引き起こす不快情動は,患者のQOLを低下させることが臨床上,報告されている。また,慢性疼痛が引き起こす不快情動が,疼痛閾値を低下させ,痛みの慢性化や難治性化を引き起こし,痛みの悪循環を生じることが知られている。近年の基礎研究により,慢性疼痛が引き起こす不快情動の形成には,情動行動をつかさどる上位中枢の可塑的変化がかかわることが明らかにされている。
中枢神経系の免疫細胞であるミクログリアは,血液脳関門が不完全な胎生期に,脳内に移行した前駆細胞から分化した内在性ミクログリアと考えられてきた。しかし近年,外傷や中枢変性疾患において,血液脳関門を通過して血行性に脳内に侵入した骨髄由来単球細胞から分化した骨髄由来ミクログリアの存在が明らかにされており,内在性ミクログリアと同様に神経細胞に影響を与え,さまざまな病態形成に関与することが注目されている。末梢神経損傷時には,脊髄後角の内在性ミクログリアが活性化し,神経障害性疼痛の病態形成に関与することが明らかになっている。さらに,慢性心理ストレスにより骨髄由来ミクログリアが視床下部に集積し,不安行動が惹起されることが報告されている。
大脳辺縁系の一部である扁桃体は,本能・情動による行動の中枢として不快情動の形成に重要な役割を担っている。特に痛みによる不快情動の形成に,扁桃体のシナプスの可塑的変化が深くかかわることが明らかになっている。われわれは神経障害性疼痛モデルマウスを用いて,骨髄由来ミクログリアを介した慢性疼痛による不安行動の形成機序と,骨髄由来ミクログリアの扁桃体への集積抑制による新規治療法に関する知見を得たので概説したい2)。
Copyright © 2018, MEDICAL SCIENCES INTERNATIONAL, LTD. All rights reserved.