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■臨床の視点
▲NSAIDsの限界
臨床でよく用いられている非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,プロスタグランジン(PG)合成の律速酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し,PG産生を抑制することで作用を発揮する(図1)。炎症や疼痛を引き起こすPGE2は誘導型COXであるCOX-2により産生されるが,NSAIDsはCOX-2阻害のみならず,恒常型COXであり消化管粘膜保護作用や腎血管維持作用のある他のPG類の産生を担うCOX-1も阻害することから,消化管出血や腎機能低下といった副作用があることが知られている。これらの副作用を回避できるCOX-2選択的阻害薬(coxib)の開発も進められ市場に出た。ただ,消化管障害を引き起こさないものの,COX-2依存性に産生され血小板活性化を抑制し抗血栓機能をもつPGI2の産生も阻害されること,またCOX-1依存性に産生されるトロンボキサン(TX)A2産生が優位となることで,心筋梗塞や虚血性心疾患リスクを約2倍に上昇させることが明らかになり,いくつかのCOX-2選択的阻害薬は販売中止を余儀なくされている。
さらに下流のPGE2産生のみを遮断するPGE2合成酵素阻害薬の開発も進んだが,基質のPGH2が他のPG合成経路に流れるシャント効果により,PGI2やPGD2といった他の疼痛にかかわるPG類が増加する結果,期待したほどの鎮痛や抗炎症効果が得られていないことがわかった。
一方,NSAIDsにより惹起される病態としてアスピリン喘息がある。発症機序として,COX-1阻害により膜の防御因子としてのPG産生が減少することをトリガーに,好酸球でのシステイニル-ロイコトリエン類(Cys-LT:LTC4,LTD4,LTE4)産生が増加することで気道過敏反応を惹起することがわかっている1)。NSAIDs使用をトリガーとしたアスピリン喘息は成人喘息の1割を占め,NSAIDsに代わる抗炎症薬の開発は長年の重要な課題である。
動物実験レベルではあるが,リポキシゲナーゼ(LOX)により産生されるロイコトリエンB4(LTB4)やその高親和性受容体BLT1を阻害することで,気道炎症や関節リウマチモデルでの症状を軽減することが報告された。BLT1遺伝子改変マウスが入手可能な状況もあり,LTB4とBLT1シグナルを阻害することが,炎症のみならず疼痛にも効果があるのではないかと推察し研究に着手した。
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