特集 外傷
9.外傷と凝固線溶異常―外傷に対する生理的凝固線溶反応と病的反応,静脈血栓塞栓症
久志本 成樹
1
Shigeki KUSHIMOTO
1
1日本医科大学 救急医学
pp.553-564
発行日 2010年7月1日
Published Date 2010/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.3102100324
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外傷急性期においては,生体は極めてダイナミックな凝固線溶動態を示す。出血から自身を守るとともに,損傷された血管内皮の修復が終了すれば,すみやかに不要な血栓を溶解・除去することにより,適切な末梢循環環境の維持を図る。しかし,ひとたびこの合目的的な生理的凝固線溶反応が破綻すると,受傷後短時間においては制御困難な出血傾向を呈することとなる。従来,希釈性凝固障害とひとくくりにされていた外傷後急性期にみられる出血傾向は,単なる希釈のみではないことが明確に認識されるようになった1)。
重症外傷における静脈血栓塞栓症の絶対リスクは40~80%とされ,脊髄損傷とともにその発現頻度の高い病態である2,3)。重症外傷や多発外傷において,予防手段を講じなかった場合の深部静脈血栓症の発現頻度は50%を超え4,5),肺血栓塞栓症は入院2日目以降の死亡原因の第3位であるとも報告されており,転帰に大きな影響を与え得る合併症である。
本稿では外傷における凝固線溶に関するトピックスとして,外傷後の生理的凝固線溶動態,急性期にみられる出血傾向が前面に認められる凝固異常のメカニズムとその捉え方,そして外傷患者における静脈血栓症にかかわる問題を述べる。
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