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はじめに
血液凝固・線溶反応はともに一連のプロエンザイム-エンザイム転換反応が連鎖的に起こり,それぞれトロンビンとプラスミンを生成し,止血(血栓形成)および血栓溶解を引き起こす.従来血液凝固の研究や検査には,もっぱらフィブリン析出を反応のエンドポイント(終末点)とする方法が使われてきた.この方法〔例えば部分トロンボプラスチン時間(PTT)など〕は,in vitroにおいて血漿中の凝固因子を人工的に活性化したときのフィブリン析出までの速度を測定するもので,PTTを用いる凝固因子定量法では血中のプロエンザイム(または第V因子や第Ⅷ因子のようなコファクター)の総量を求めることになる.一方,線溶系においてもプラスミノゲンやインヒビターの総量を測定することが一般に行われている.このような血中のプロエンザイムの測定は,血友病などの先天性凝固因子欠乏症の診断には有用であるが,凝固亢進状態や線溶亢進状態の把握には適切ではない.
その理由としては,血中凝固・線溶因子の濃度は産生と破壊(消費)とのバランスにより規定されるので,一時点における血中濃度がたとえ低下しているとしても,それが産生低下によるものなのかあるいは消費充進によるものなのかは不明であるからである.同様なことは凝固阻止因子(アンチトロンビンIII(AT III)など)についても言えることで,血中濃度低下を直ちに凝固充進により消費されたものと解釈することはできない.放射性同位元素で標識した精製凝固・線溶因子(例えばプロトロンビン)を静注して半減期を求めることから体内における動態を知ることができる.しかし,この方法はどこの施設でもできるものでもなく,またルチーンに使えるものではなく,そのうえプロトロンビンの消費の大部分はgenenal catabolic pathwayによるもの1)で,凝固によりトロンビンへ転換される部分は少ないため,血中半減期のデータを直ちに凝固充進に結び付けることは困難である.一方,シリコン塗布試験管を用いるシリコンPTTは凝固充進状態のスクリーニングに役だつという意見もあるが,通常のAPTTによる凝固因子測定法ではザイモゲンと活性化因子とを区別できないので,生体内における凝固動態を反映しない.
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