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Anesthesia & Analgesia
Special article:
Khan A, Vinson AE. Physician well-being in practice. Anesth Analg 2020;131:1359-69.
■「医師の働き方」とwell-being
「医師の働き方改革」が叫ばれているが,その主眼は長時間にわたる過重労働の削減に重点がおかれているようにみえる。だが,ことはそれほど単純ではない。この論文では,医師のwell-beingについて解説している。well-beingは,辞書を引くと「幸福な状態」や「健康な状態」という訳がでてくるが,どうもピンとこない。well-beingとは「人間らしく充実した社会生活を送ること」ではないかと思う。適当な訳語がないので,今回はwell-beingという言葉をそのまま用いたい。
well-beingに相対する言葉として,burnout(燃え尽き)がある。burnoutでは,感情的な枯渇,離人症,個人的達成感の低下などの症状が起こる。米国の麻酔科医の実に40〜45%にburnoutの症状があるという。医学生でさえ28%がうつ状態にある。最近,よく耳にする言葉にresilienceがある。回復力,弾力などと訳される。resilienceには,ストレスに晒されたときに健康的に順応し,最小の精神的,身体的負担で目標を達成する,という意味がある。resilientであれば,ストレスに晒されてもすぐに回復するだけでなく,その過程を通じてさらに強くなることができる。しかし,resilienceが失われてしまえば,うつ状態や薬物乱用,自殺などに至る。米国の医療関係者の中で,麻酔科医の自殺率が第1位となっていることは,麻酔科医を取り巻く環境が厳しいものであり,それを救済する手段が不十分であることを示唆している。
医師のwell-beingを障害する因子には,多忙や,電子カルテ記載,事務作業の増加,診察時間の短縮や患者との会話の減少,自律的な診療の減少,医療の達成感の消失などがある。医療訴訟に至ることへの恐怖による防御的医療と医療コストの増大,医療事故を起こした場合の精神的,感情的な影響によるsecond victim syndromeも問題となる。米国では入院患者の5〜18%に相当する40万人が年間に医療事故死していることからも,second victim syndromeになる医師が多いことが想像できる。米国の医学生は学費を払うために平均20万ドルの負債を抱えており,医師になってからの返済義務も大きい。睡眠不足や運動不足,偏った食事や脱水などによる身体能力の低下や疲労も起こる。医師は精神的,肉体的に追い詰められる状況にある。
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