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例えば,出血性ショックや敗血症性ショックなどの重症患者の緊急手術に際して,麻酔科医は専門的知識・技能を存分に発揮して術中管理を行い,“予定通り”に患者をICUに入室させた後,集中治療医や主科医師に術中の全身管理の方針を引き継ぎます。やがてその患者がICUを無事に退室した暁には,「患者の安全の最後の砦」として自らが手術中に果たした,目立たないかもしれないが重要な役割を少しばかり誇りに思ったりします。
一方で,予期せぬICU入室症例を経験した場合,麻酔科医としては複雑な思いにかられることでしょう。「予期せぬ」といってもその原因はさまざまです。誰にも予見できないが一定の確率で起こり得るもの(例:アナフィラキシー)もあれば,主に術者側に起因するもの(例:大血管の想定外の損傷)もあります。その中で麻酔科側が主因のもの,特に“Just a routine anesthesia”と心の中で思っていたASA-PS 1〜2の患者が低侵襲手術後に予期せぬICU入室に至ると,麻酔科医は「負け戦」と感じるかもしれません。麻酔管理を勝負事になぞらえるのは不謹慎とのそしりを受けるかもしれませんが,人の生命の根幹に介入する麻酔という医療行為には「必勝」が求められていることも忘れてはなりません。
「勝ちに不思議の勝ちあり,負けに不思議の負けなし」と言います。専門的知識や技術の検証だけでなく,備えているはずの知識や技術を特定の状況で発揮するためのノンテクニカルスキル,すなわち状況認識や意思決定などの認知スキルやコミュニケーション,チームワークなどの対人スキルの観点からも,予期せぬ結果を振り返ることが大切です。さらに予期せぬICU入室に至った症例(それが麻酔要因によるものであれ手術要因によるものであれ)の術後管理に担当麻酔科医として積極的にかかわることは,周術期管理の質の向上にも役立ちます。
今月から数回に分けて行う本症例検討が,日頃はICUにかかわる機会が少ない麻酔科医にとっても,術中から術後へとシームレスな全身管理を行う周術期管理医としての麻酔科医の立ち位置を再認識する契機になることを期待しています。
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