特集 病気の分子細胞生物学
1.筋・神経・精神疾患
ハンチントン病
金澤 一郎
1
Ichiro Kanazawa
1
1東京大学医学部附属病院神経内科
pp.383-384
発行日 1999年10月15日
Published Date 1999/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.2425901734
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[疾患概略]
ハンチントン病は主に成人期に発病する舞踏病であり,進行性の舞踏運動を中心とする不随意運動と知的障害,性格障害,精神障害などを臨床的特徴とし,常染色体優性遺伝形式を示す神経変性疾患である。病理学的には,GABA/SPを神経伝達物質とし,黒質に終止する線条体小細胞のほぼ選択的な変性・脱落があり,それに対応して線条体の萎縮と側脳室の拡大を認め,これが舞踏運動発現の機構を形成している。さらに経過とともに前頭葉,側頭葉の萎縮も出現し,これが知的障害発現と関連しているとされている。これまでは,線条体の病理所見については神経細胞の脱落があるのみで,それ以外の本症を特徴づける特別な所見はないとされてきたが,最近の研究によって残存する線条体細胞や大脳皮質細胞の核内にユビキチン染色陽性の核内封入体が存在し,これが神経細胞死と関係しているであろうことが指摘されている(後述)。
本症の頻度には著しい人種差があり,欧米での100万人当たり50人に対して本邦では2~3人と少ない。古典遺伝学的知見から,ほかの優性遺伝性疾患に比して著しく浸透率が高く,突然変異率が低いという特徴が知られている。なお,常染色体優性遺伝だけでは説明できない現象として,20歳以下で発病する若年性ハンチントン病(5~10%)の場合に約90%で異常遺伝子を父親から受け継ぐという現象がある。
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