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双生児研究の流れ
これまでの複雑疾患における双生児研究は,主として一卵性双生児と二卵性双生児を比較し,一卵性双生児で二卵性より疾患の一致率が高い場合に,遺伝因子の関与が証明される,という方法で行われてきた。
一方,こうした古典的な―ここでは第1世代の双生児研究と呼ぶことにする―双生児研究に対し,1980年代頃から行われるようになった第2世代の双生児研究では,不一致な一卵性双生児に着目し,不一致を起こす環境因や,不一致に伴う中間表現型が探索された。例えば,一卵性双生児で一人だけが統合失調症を発症した不一致例15ペアでMRIを調べた結果,患者側では健常双生児に比して海馬が小さかった,との報告がある1)。海馬の体積には個人差があり,こうした画像研究では知能,教育年数など多数の攪乱因子を統制しなければならず,確実な結果を得ることは容易ではない。しかしながら,不一致双生児を調べることで確実な結果が得られ,この研究により,統合失調症における海馬体積減少という所見が確立した。また同様に,統合失調症の不一致例23ペアで周産期障害の程度を調べた結果,患者側で周産期障害が重症であることがわかり,この研究も統合失調症の危険因子としての周産期障害の確立および統合失調症の神経発達障害説の確立に大きく寄与した2)。PTSD(外傷後ストレス障害)患者でも,海馬体積が小さいことが知られており,これはストレスにより分泌されたコルチゾールが海馬に作用し,海馬萎縮を招いたと考えられていた。ところが,戦争によりPTSDを発症した17ペアの一卵性双生児不一致例における研究では,戦争に参加していない双生児でも海馬が小さかった。このことから,海馬の体積減少はストレスによる萎縮ではなく,遺伝的に,あるいは発達の中で形成された危険因子であることが初めて明らかにされた3)。
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