連載 日本人が貢献した認知症研究の足跡・2
γセクレターゼによるAPP切断とアルツハイマー病
舟本 聡
1
1同志社大学大学院生命医科学研究科神経病理学
キーワード:
アルツハイマー病
,
アミロイドβ
,
Aβ
,
γセクレターゼ
Keyword:
アルツハイマー病
,
アミロイドβ
,
Aβ
,
γセクレターゼ
pp.627-631
発行日 2025年5月1日
Published Date 2025/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.188160960770050627
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はじめに
γセクレターゼは膜に存在するアスパラギン酸プロテアーゼで,Nicastrin,Presenilin,Aph-1,Pen-2によって構成される巨大な蛋白質複合体である1-10)。γセクレターゼにはおよそ150種類の基質蛋白質が報告され,これらの切断は生理的に必要なものと認識されている11)。
数ある基質の中で,アミロイド前駆体蛋白質(amyloid precursor protein:APP)は,アミロイドβ(Aβ)の基質蛋白質であることからアルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)との関連で,最もよく研究されているγセクレターゼ基質蛋白質である12,13)。近年,γセクレターゼの凍結電子顕微鏡を駆使した単粒子解析法による構造解析がなされ,原子レベルの酵素本体の構造はもちろん基質分子や阻害剤と相互作用する様子までも示され,まさにAD発症機序の根幹をなすAβ産生メカニズムの理解に肉薄しつつある14,15)。
このような解析データは高性能な低温電子顕微鏡や原画像の解析技術に大きく依存するが,そもそもAβ産生に関する生化学的データが得られなければ,撮像の標的すら定まらない。本論では,AD発症機序に関するγセクレターゼによるAβ産生の生化学的知見について,筆者のメンターであった井原康夫先生(1945-2023)の研究功績を含めて解説したい。

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