連載 職場のエロス・3
聖地の吐息
西川 勝
1,2
1老人保健施設ニューライフガラシア
2大阪大学大学院臨床哲学博士課程前期1年
pp.71
発行日 2001年5月15日
Published Date 2001/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689900376
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ぼくが勤めている老人保健施設は,痴呆症や身体的障害を抱える車椅子の老人が大部分を占める。夜勤職員は夕食介助をして就寝援助の藩替えやトイレ誘導にと慌ただしい時間をやり抜ける。午後9時の消灯,フロアが一瞬にして無音になった気がする。明かりの下で繰り広げられた細かな生活のざわめきが暗がりに吸い込まれてしまうのだ。ふと,ほっとした気持ちになれる。
夜間の巡視。何かをするために訪れるのではない。黒子になったつもりで部屋を回る。眉間にひときわ深い縦皺をつくったままの寝顔がある。昼間には「ここはどこ,何をしたらいいの」とよく訴え,自身の痴呆症状に当惑し苦しむひとだ。
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