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はじめに
精神科病院の看護師さんは、看守ではありません。病院は留置場ではありません。精神科看護師の仕事はこころのケアであり、その場所が精神科病院です。
でも、不思議と精神科病院は警察沙汰に巻き込まれます。吉田茂時代の精神衛生法以来、濫用され続けてきた措置入院という制度のせいです。措置入院は「自傷他害のおそれ」が要件とされます。他害とは要するに暴行・傷害・殺人のことでしょう。警察官が暴行・傷害・殺人のおそれが迫っている人を連れてきて、鬼の形相で入院を迫ってきます。警察官職務執行法第三条という法律があって、「精神錯乱や泥酔のため自己又は他人に危害を加えるおそれがある」人を警察官は保護することができますが、これは24時間の限定付きです。そのあとは、しかるべき機関にその人を引き渡さなければなりません。では、「しかるべき機関」とはどこか? 精神科病院しかない。だから、警察官は険しい表情で指定医の診察を見ているのです。
警察官にとってこの「警察官職務執行法&措置入院」というペアは重宝しています。逮捕状を取らなくても身柄を確保でき、しかも、措置入院させてしまえば裁判にかけなくても拘禁することができるからです。暴行・傷害・殺人のおそれがあっても、その人が精神障害だという理由をつければ、病院に押し付けることができます。あとは、指定医が用紙の「要措置」欄にマルを付けてくれるのを待つだけです。
このように措置入院は、治安目的に濫用されています。その気になれば「逮捕状なき逮捕、裁判なき無期拘禁」だってできてしまいます*1。濫用し放題のこの制度のおかげで、看護師さんは危険人物の監視をさせられます。こんな理不尽な話はありません。
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