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日本で精神鑑定というと裁判の判決に必要な資料としての司法精神鑑定と,精神衛生法による知事の権限による精神障害者の措置入院決定の資料となる行政上の精神鑑定の2つがある。同じ精神鑑定といっても,その目的と,立場が異なるので,大きな差があることはもちろんであるが,民事上の司法精神鑑定は別としても,刑事上の司法精神鑑定と,行政上の精神鑑定とは,その対象の精神障害者の質は同一であり,刑事政策上はその間には密接な関係がある。しかし現実にはその間の連絡や協力はきわめて薄弱であるし,実際の患者に対する処理は当を得ていないことが少なくない。わたくしはこの2つの精神鑑定についての関係やその間の問題点などで色々の矛盾を経験しているので,ここにまとめて述べてみることにする。
精神衛生法の措置入院と関連を持つ司法鑑定は上記のとおり,刑事事件(特別法犯を含む)に関する精神鑑定に限ることができる。刑事精神鑑定ではいうまでもなく,犯罪の行為に関して,被告人(または被疑者)が刑事責任能力を十分に有していたか否かが最大の鑑定の目標となる。その他にも犯行時ばかりでなく,現在(鑑定時)の精神状態も鑑定するよう合わせて問われる場合が多い。これは裁判の審理過程において,自己を正当に弁護する能力があるか否か,また訴訟に必要な尋問や,裁判に出廷することが,被告人の精神症状に著しい害を及ぼす恐れがあるか否か,さらに裁判確定後に受刑能力があるか否かなどが必要なので参考のために問われるものと考えられる。しかし主たる精神鑑定の目標は犯行時の刑事責任能力であり,有責行為として判決を受け得るかどうかであることはもちろんである。裁判の過程に入る前の段階で,警察における取調べの段階,あるいは検察官の取調べの段階においても精神医学的な診察や鑑定を要請されることもあるが,この場合も警察官は送検すべきかどうか,検察官は起訴すべきかどうかの資料を得たいことが目標で,要は有責の行為能力があるか否かの判断を求めているわけである。更に具体的にいえば何れの段階でも,刑法29条の心神喪失または心神耗弱に該当するか否かの判定資料を得ようということにある。
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