連載 何が人を殺すのか・1【新連載】
ありふれたふつうの措置入院
齋藤 美衣
pp.210-217
発行日 2024年5月15日
Published Date 2024/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689201270
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2023年8月23日の午後5時ごろ、気がついたらわたしは自宅の寝室で数名の警察官に取り囲まれていた。室内にはクーラーがかかっていたが蒸し暑く、わたしは嗚咽しながら自らの涙と汗にまみれていた。
10代の終わりごろからわたしは断続的に精神科にかかり、30代のはじめには数回の入院も経験していた。40代になって再び体調を崩し、1年半ほど前から精神科のクリニックに通院していた。初めての希死念慮の記憶は6歳だ。自分がみんなの属している世界に入れないと感じたのが小学校入学のころで、周りの人が話す言葉が外国語のように聞こえて、まったく聞き取れなかった。聞き取ることができた日本語も、本当のことと思えなかった。人は考えていることと違うことを話しているのか、あるいは何も考えていないのではないかと思った。どちらにしてもわたしには人々のそのようなふるまいが理解できず、他者の言葉をどのように受け取ったらいいのか、どのように反応すればよいのかわからなかった。
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