書評
『対話と承認のケア—ナラティヴが生み出す世界』
斎藤 環
1
1筑波大学医学医療系社会精神保健学
pp.381
発行日 2020年7月15日
Published Date 2020/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200779
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ケアとは弱さの共有である
●ヘルスケアにおける2つの立場
ケアにおけるナラティヴ・アプローチの意義とは何か。著者は、迷いつつ自問自答しながら思索を進めていくかのようだ。冒頭ではアリストテレスからバフチンに至る物語論の歴史が概観され、ケアを考える際の基本的な対立軸として、「実在論」と「構築論」が導入される。
前者は物事が人間の認識とは独立して存在すると考える立場であり、エビデンスなどに基づいて対応を考える。後者は物事が人間の認識によって存在するという考え方であり、これは言語とコミュニケーションが現実を構成するとする、いわゆる「社会構成主義」である。ヘルスケアは、このいずれかの立場に二分される。標準化された公平なケアという正解を目指す実在論的なものと、患者のナラティヴに注目し、公正性に基づいて、個別化されたケアを提供する構築論的なものと。
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