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書評 対話と承認のケア―ナラティヴが生み出す世界
吉田 みつ子
1
1日本赤十字看護大学看護学部
pp.443
発行日 2020年5月25日
Published Date 2020/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663201492
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「ナラティヴ」から問う、看護とは?
本書は、これまで私のなかに浮かんでは消えていた「ナラティヴ」にまつわる2つの問いについて考える機会を与えてくれた。
1つは、ナラティヴ、ナラティヴ・アプローチという一種のムーブメントが、医療、ケアのあり方に何をもたらすのかという問いである。看護現象を説明するための理論的基盤を探し求めてきた看護学は、関連領域の理論を取り込んできた歴史がある。ゆえに、新しいムーブメントにはいつも敏感である。本書は、ナラティヴがヘルスケアにもたらすムーブメントの意味を、実在論と構築論という二つの疾病観に基づくヘルスケアを対比することによって浮かび上がらせる。医学論文で推奨されるエビデンスに基づく標準化された治療やケアを提供することを重要視する医療を「実在論的ヘルスケア」、ナラティヴ・アプローチに基づく疾病観と医療を「構築論的ヘルスケア」とし、これらを二項対立図式においたときに何が見えるのか議論されている。構築論的ヘルスケアにおいては、病気の原因は独立して存在しないし、唯一正しい説明もない。病気はそれを語る患者や、他の複数の人々の「文脈性をともなった語り」に基づいて構成されるととらえられる。よって、医療従事者が実在論的な医学的解釈枠組みに沿って都合よく話を聞こうとすることはナラティヴ・アプローチからは外れる。「ナラティヴ」の世界観においては、医療者がもつ知識やそれに基づく解釈も、患者の語りと同等に位置づけられる。つまり「ナラティヴ」は医療に携わる者が専門性のとらえ方を根本から転換することを求めている。
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