特別記事
認知症に対する精神療法—我々の向き合い方を180度転換させる
上田 諭
1
1日本医科大学精神神経科
pp.150-161
発行日 2016年3月15日
Published Date 2016/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689200204
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現在の認知症診療に欠けている一番大事なもの
認知症はいま大きな社会問題になっているが、医療現場では認知症のいったい何を治そうとしているのだろうか。
代表的スタンスとして、認知機能そのものを少しでも改善させようとしたり、治らないまでもなんとか維持しようとしたり、「困った言動」を矯正しようと努力する立場がある。受診に訪れる家族もまた、治るのではないか、記憶や実行機能(料理、仕事など)がよくなるのではないか、機嫌もおさまるのではないか、と思っていることが少なくない。テレビも新聞も雑誌も、「治せる、予防できる」と毎日のように言っている。だから介護が楽になるのではないのかと期待して、家族が本人を連れて外来へやってくる。ところが、認知症をみる医師はこう心の中で思っている。認知症に根治療法はない。BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia:認知症の行動心理症状)もしょうがない、抗認知症薬と鎮静の薬を出すしかやることがない—悲しいことに、期待と現実とに大きなギャップがある。
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