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はじめに
地域で生活する操作的言動を繰り返す適応障害の人へ、WRAPの視点を反映した「WRAP式看護計画」を用いて訪問看護を行った。実生活のなかで実行できる健康管理法を自分で見つけ、自己対処していけることを目的にしてかかわった結果、短期間のうちに効果が見出されたので報告する。
WRAPは「ラップ」と読み、Wellness Recovery Action Planの略である。1990年代に、アメリカの当事者の経験と知恵から生まれた、「自分自身の力で健康を回復する」ための補完的プログラムである。
WRAP自体の説明は煩雑であるため、今回はその詳述は省くが、私の解釈としては、普段の自分を書きとめ、元気でいるためにするとよいことをあげ、元気を失いそうになる各過程で自己対処していく行動プランを作ることを基本とする。
調子がいい時もそうでない時も、人それぞれに状態は違っており、また何が引き金になって調子が落ちるかも、どんな行動を取れば調子が回復するのかも1人1人違っている。他人の方法はそのまま自分にあてはまるわけではない。だから作成したWRAPは当然その人自身のオリジナルなものになる*1。
WRAPの作成はその人が「調子がいい時」に行うことが望ましく、結果を何らかの媒体(紙、携帯のメモ機能、音声など)に残しておくという点もポイントだ。なぜなら調子が落ちてきた時や本格的に調子が悪くなった状態では、もう効果的な対処行動を正しく思い浮かべることは困難だからだ*1。
精神科訪問看護で看護師が訪れている時間は、利用者の暮らしのほんの一部に過ぎない。その他多くの時間は、利用者自身で自己対処していかなければならない。そうであるからこそ、訪問看護師の大きな役割の1つは、利用者がさまざまな問題において自己対処できる力をつけるように援助することと言える。訪問看護以外の時間に起きる問題行動に24時間付き合うことができない以上、そうした援助は必須である。
今回、自分の欲求を充足させるために他者を操作するという対処行動に頼る利用者への訪問看護において、「たとえストレス因子が生じても、対人操作という対処行動に走ることなく、適応的な行動を取れること」を目指してWRAP式看護計画を立ててかかわることとなった。
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