連載 木挽先生のすべらない精神科実習指導・8
「病識がない」という魔の論理
木挽 秀夫
1
1ケアネットホーム高畑
pp.124-125
発行日 2012年7月15日
Published Date 2012/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1689101066
- 有料閲覧
- 文献概要
病識がないから拒薬する?
精神看護学のテキストに必ず載っている言葉の1つに「病識」があります。精神科の患者さん方は病識を持ちにくい、あるいは病識がないといったようなことが書かれています。この病識というものに関連して看護の現場で起こっていることに、「服薬確認」があります。服薬とは、通常であれば患者さん自身が管理をしていくべきものだと思います。ところが、精神科実習の場面においては、指導者が学生に、受け持ちの患者さんが確実に服用したかどうか確認することがよくあります。理由を指導者に尋ねると、「病識がないから大切な薬を飲まないことがある。だから確認をします」という返事。「病識があれば服薬しないはずはない。精神科の患者さんは病識がないから拒薬する」といった論理です。
このやり取りを聞いていると、自分が看護師だった頃を思い出します。食事が終わると患者さんは一列に並び、看護師が1人ずつの口の中に薬を入れ、薬杯といわれる小さなコップで薬を飲んでもらいます。その後舌を上げてもらって口の中を確認し、薬が残っていないかどうか見せてもらう……これが仕事になっていました。先輩看護師からも、「この人たちは病識がないから薬を飲まないことがある。だから、飲んだかどうか確認しなくてはならないし、ずるい人だと飲んだふりをして吐き出すことがある。変なそぶりがあったら後をつけてでも確認して」とまで言われたような記憶があります。その頃の自分は何の疑問も持たず必死に服薬確認をし、ときに吐き出すところを見つけると手柄を立てたような気にさえなっていました。
Copyright © 2012, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.