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I.
Jaspers4)は患者の疾病体験に対しての理想的に<正しい>構えを病識Krankheitseinsichtとよんでいます。具体的には<病いである感じ,変化したという感じ>のあらわれである疾病意識Krankheitsbewusstseinが症状に対しても,病い全体に対しても,客観的に正しい程度にまで存在するとき病識があるといわれるのであります。わたくしどもは日常臨床で,病識を病いの存在に対する自覚という意味で考えているように思われます。病いの存在に対する自覚をかくということは,自己の状態に対する見当識をなくすことであり,そのような人間存在の基本的な判断のあやまりは人格のはなはだしい歪みなしにはおこらないものであります。すなわち,病識欠如を精神病とし,病識出現を精神病の寛解とする,わたくしどもの日常臨床における診断の根拠は病識,すなわち病いの存在に対する自覚が精神の健康を象徴するものであるという考えにもとづいているものであります。
ところで,精神分析の著書のなかで,Krankheitseinsichtというコトバそのものを発見することは困難であります。それに相当するのは,Insight into mental condition精神状態に対する洞察でありましよう。このInsight into mental conditionは精神分析が治療のプラクシスで重視する洞察の一部であります。精神分析では洞察というコトバは患者が自分が病いであることを知り,その病いの性質を知り,それをおこすにいたつた特別の力動を知るという意味で使われます。その際の洞察は知的洞察intellectual insightとか,verbal insightコトバでの洞察とか,第三者の洞察とかといわれるような,ただ単に表面的な,意識的な理解ではありません。情緒的洞察emotional insightとも,心理的洞察psychological insightともいわれる患者の意識野をこえた彼の人格の力動構造の変化をもともなう種類のものであります。
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