Japanese
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研究と報告
詐病という病識錯誤について
A False Insight "Malingering"
小泉 隆徳
1
Takanori Koizumi
1
1信州大学医学部精神医学教室
1Dept. of Neuropsych., School of Med., Shinshu Univ.
pp.801-806
発行日 1968年10月15日
Published Date 1968/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201393
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Ⅰ.まえがき
精神病ことにいわゆる内因性精神病の場合,精神障害が一応消褪してから,あるいはまだ障害が去らないうちに,自己の精神障害の状態の一部あるいは全部を指して,芝居をしていた,わざとやつたと述べる患者がいる。すなわち詐病であると自ら告白するのである。内因性精神病と診断して,あとで患者がそれは詐病であつたというのを信用するなら,医師の誤診である。実際内因性精神病があつて,医師が正しく診断しており,あとで患者が詐病であつたというなら疾患隠蔽か,あるいは特有の誤つた病識というべきである。疾患隠蔽1)というのは,たとえば慢性妄想患者が,自分が精神病と思われることを避けるために,実際妄想がありながらそれを隠すとか,うつ病の患者が自殺の目的を悟られないために,憂うつな気分を隠すという場合であるが,この場合患者は,他人は自分を病気ということは知つていても,自分を病気とは思つていないのであつて,すなわち病識はないのである。いまここで述べる特殊の疾患隠蔽にやや似た例は,Bleuler2)が述べている。すなわちある妄想患者が,周囲の人が皆自分をだまして精神病に仕立てようとして妙なことをやるので,病院に入れられて自分が健康であると見てもらうために精神病のまねをしたという。これは妄想患者の詐病である。疾患隠蔽ではない。Kraepelin3)は患者の精神分裂病は詐病であると思えるときでも,しばらく見ているとほとんどその全部が実際に分裂病とわかるものであるというが,これは検者の誤診となろう。検者の了解過多による誤診である。
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