連載 読むことと旅すること 人との出会いに魅せられて・1【新連載】
「ひきこもり」考
服部 祥子
pp.318-319
発行日 2010年4月15日
Published Date 2010/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101590
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私は読むことが好きです。本の中で何度人との出会いに魅せられたことでしょうか。子ども時代にはじめてきちんと読んだ本は『赤い鳥』でした。うろ覚えですが,たしか二部に分かれていて,前半は鈴木三重吉の「あかいとり ことり なぜなぜあかい あかいみを たべた」から始まる平仮名ばかりの童謡のような詩が並んでいました。幼い私は一字一字指をそえて,声を出して読みました。後半部は年長児向けの漢字も入った日本昔ばなし風の物語や外国もののストーリーの数々で,7,8歳でそれが読めるようになった私は,急にお姉さんになったような誇らしい気持ちで何度も読み返しました。それ以来60年余,本を読むことは私の生活のもっとも大切な一部になりました。呼吸をするのと同じくらい自然で,手放すことのできない楽しみです。
私は旅することも好きです。憧れの先人の足跡を辿る旅にしばしば出かけますが,風景の中で耳を澄まし目を凝らすと,その人が新たな面影となって私の前に現われるような興奮を覚えることがよくあります。また旅することで思いがけない出会いもあります。つい先頃,学会もかねて遠い町に旅をしました。帰途私の講演を聞いたという男性と偶然同じ車に乗り合わせた時,「目を輝かせて,詩人のように話す方ですね」と言われました。これは,これは。70歳の老女にこんな言葉をかけてくださるなんて……。今まで会ったことのない心理学者であるその人の言葉は,空港までの束の間のひととき,花束をもらった女学生のように私の胸をときめかせました。そんな旅の余韻が好きです。
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