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はじめに
「ひきこもりの予後」などという大変なテーマの論文を引き受けてしまった。正直に言って,筆者も含めて,このテーマにまともに答えられる人はいないだろう。ならばテーマを変えたらどうかといわれそうだが,あまりにも臨床的に重要な事項であるためになかなか捨てられそうもない。確かにいま,ひきこもりが社会的な脚光を浴びている。これがわが国によくある類いの一時的なブームであってほしいものだが,筆者のように思春期青年期の精神科臨床に携わっている者にとっては,いやおうなく避けて通れない現象でもあり,今後しばらくこのブームは続くことだろう。
その飛び火は,わが国全土だけでなく諸外国にまで広がっている。昨夏に横浜で開催されたWPAでは,筆者が座長を務めて,“Social Withdrawal (Hikikomori) in and out of Japan”と題した初めての国際シンポジウムを行った。シンポジストは斎藤環氏(佐々木病院),倉林るみい氏(産業医学総合研究所),近藤卓氏(東海大学文学部),Lee Si Hyung氏(三星社会精神健康研究所,韓国),Fones S.L. Calvin氏(国立シンガポール大学心理医学部)という顔ぶれであった。また,マスコミへの無益な露出をできるだけ避けている筆者のところにさえ,これまでアメリカ,イギリス,フランス,スイス,イタリアなどの各種報道機関から直接取材が来ている。そのたびに決まって「ひきこもりの社会的背景は?」とか「受験競争が激しい日本特有の現象か?」などの紋切り型の質問を受け,日本語でさえも返答に窮する問いに,「あー,またか,そんな単純な問題ではないんだ」6)とうんざりしながらも,でたらめな外国語をふりかざして取材者を煙に巻いているところである。
実は,ひきこもりについては,臨床家の間で20年近い前から警鐘を鳴らされていたにもかかわらず,その実証的研究の端緒はやっと開かれたばかりである12)。したがって,以下に展開する「ひきこもりの予後」についての説明は,科学的な論拠にやや乏しいものであることをご容赦願いたい。
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