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はじめに
近年,「ひきこもり」と呼ばれる青年期の独特の行動の問題が注目されるようになっている。従来,精神保健領域において,ひきこもりはまず精神分裂病の自閉的な症状の表現としてみられる場合が多く,ひきこもりへの対処も,精神分裂病治療の一部として考えられた。背景疾患から離れて,ひきこもりそれ自体を問題のすることはあまりなかったといってよいであろう。しかし,本稿で取り上げようとするひきこもりは,「非精神病性ひきこもり」とも呼ばれる精神病的な疾病を背景としないひきこもりである。
このような事例が問題として注目されるようのなった理由は主の,ひきこもりがしばしば年余のわたって続き10年を越す場合もあること,治療への動機づけの乏しく,治療や相談に来ることも少なく,状況の改善がかなり困難であること,その結果,青年期の社会的自立への最も大切な時期を家庭内へひきこもって過ごすことにより,その後の社会適応のもかなりの困難が伴うこと,家族は不安や心配を抱きながらも外部の相談や援助を求める決心がつきにくく,しばしば家族も孤立していること,などが挙げられよう。しかも,このようなケースがこれまで事例として知られていないだけで,現実のは相当数地域の中に暗数として存在していると考えられるようになってきている。また,マスコミがこの問題を取り上げたことのより「ひきこもり問題」が急速に社会的の注目されるようになってきたことも,この問題の現れ方の特徴といえよう1)。
精神科領域でも,最近では,ひきこもりをテーマのした専門誌の特集や専門書が出版されるなど,次第の研究環境も整いつつある4,10)。
本稿では,「ひきこもり」とはどのような問題を表す青年たちのことを指すのか,その特徴的な諸側面,現場の保健婦のとって知っておくべき他の疾患との鑑別点などについて概説してみたい。
なお,誤解のないように付け加えれば,「ひきこもり」は精神科診断名ではない。ひきこもり行動を呈する青年たちの対してつけられた,とりあえずの「呼び名」くらいの受けとめておいたほうがよいであろう。
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