連載 かれんと
滅びる種族
古茂田 宏
1
1一橋大学社会学部
pp.223
発行日 1996年4月10日
Published Date 1996/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900471
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テレビのコマーシャルで,こんなのがあった.パソコン坊やふうの男の子が出てきて,「コンピュータができない人って,滅びると思う……」とポツンと言うシンプルなものだ.うまいなと思ったし,またそのとおりだろうなとやや慄然とする思いで聞いた.私自身は今のところこの「滅びる」運命の種族,トリケラトプスやティラノサウルスの類いに属しているのであるが,その旧人類から見ても,この急激なテクノロジーの発展と普及は押し止められないだろうと思う.
しかしこんなふうに言うと,ではお前は今でも巻紙に墨と筆で書いたりしているのかと椰揄されるかもしれないが,それはそうでもない.私も,長い心理的抵抗の後ワープロを導入したし,それを使い出したらもう原稿用紙の升目を埋めるなどという作業はできなくなってしまったという人間の1人である.何しろ書くのが速くなったし,翻訳をするのにも便利だ.腸捻転のミミズのような悪筆を人様にさらさなくてもよくなったのもありがたい.そして,パソコン通信,情報検索システム,インターネットといったテクノロジーの発達をもれ聞くたびに,ああ便利になるだろうな,使い出したらやめられないだろうかと,そう思いもするのである.だから結局のところ,私もいつかはこうした新しい読み書き(リテラシー)の世界に巻き込まれていくことになるだろう.それは避けがたい宿命である.
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