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要約
本論文では,看護における臨床判断に関する研究が進んでいることを概説し,それら研究を基盤にした新しい臨床判断モデルを提示している。ほぼ200本の研究論文をレビューすることで,次の5つの結論を導き出すことができる。(1)臨床判断は,状況に関する手元の客観的データよりも,看護師がその状況に対して持ち得る中身によって,より影響を受ける。(2)合理的な臨床判断は,患者および患者の関心事(心配事)に関わることと同様に,患者と患者の典型的な反応パターンをどれだけ知っているかにかかっている。(3)臨床判断は,その状況が起きているコンテクスト(文脈)と看護ケア単位(ユニット)の文化に影響を受ける。(4)看護師はさまざまな理由づけパターンを単独で,あるいは複合的に組み合わせて使っている。(5)実践におけるリフレクションは,しばしば臨床判断における失敗をきっかけにして行われるが,臨床的知識の発展や臨床的理由づけの改善に極めて重要である。
これら総論的な結論に基づくモデルによって,看護師が何に気づき,それをどのように解釈し,反応し,リフレクションを行うかというプロセスにおいて,看護師の背景・状況に関するコンテクスト(文脈)・看護師の患者との関係の果たす役割が,いかに重要であるかを示している。
臨床判断は,事実上,どの健康専門職にとっても,1つの本質的な技能であるとみられている。フローレンス・ナイチンゲールがしっかりと確立させたのは,観察とその解釈が,訓練された看護実践のよく分かる特徴であるということだ。最近は,看護における臨床判断が,実践で広く用いられる看護過程モデルと同じ意味合いを持ってきている。このモデルでは,臨床判断は,問題解決行動として見られている,つまり,アセスメントと看護診断に始まり,診断した問題の解決に向けて看護介入を実施し,その介入の効果の評価に至るというものである。
このモデルは,学び始めたばかりの看護学生に系統的な問題解決の1つの方法を教えるのには役に立つかもしれないが,研究によると,初心者看護師と経験のある看護師どちらもがしている看護判断のプロセスを,適切に描写することはできないことが分かっている(Fonteyn, 1991; Tanner, 1998)。さらに,このモデルが,臨床判断の複雑性と,それに影響する多くの因子を説明できないので,教育で用いられるこのモデルだけに頼ることは,看護学生にとっては十分とは言えず,困ったことになるかもしれない。
本論の目的は,看護における臨床判断についての研究全体をレビューし,そこから引き出される結論を要約し,発表されている多くの記述的研究から,教育にとって役に立つ枠組みとなるかもしれない臨床判断の代替モデルを提示することである。
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