連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・109
生き物の眼差し,人間の眼差し
柳田 邦男
pp.534-535
発行日 2015年6月10日
Published Date 2015/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686200213
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かつて柴犬を家族の一員にしていた頃,いつも忠実そのもののような目で私を追うように見つめるので,「おい,サブロー,何だね」と言葉をかけてやる。サブローはわが柴犬の名前だった。そのつぶらな瞳は,「散歩に行きたいよー」と訴えているのが,私にはすぐにわかるのだが,私が「さん(散)……」と片言でも言いかけようものなら,もうわかってしまって,嬉しさを抑えきれずに,部屋中を走り回る。だから,散歩できないときには,うっかり「散歩に行きたいの?」などと言うのは禁句で,「おい,何だね」ととぼけるのだ。
赤ん坊のときから育てた愛犬との目のコミュニケーションの経験から推測すると,動物行動学の研究者や動物園の飼育係などが,ゴリラやオランウータンのような動物たちと,気心が通じ合っていて,親密な関係を持っていると言われるのは本当のことだと思う。
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