連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・192
森と生き物たちの共棲の物語
柳田 邦男
pp.778-779
発行日 2022年9月10日
Published Date 2022/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686202239
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絵本という表現法ののびやかな特質は,ファンタジーとリアリティを違和感なく交錯させながら,作者の意図するテーマを声高にでなく,読む者にしっとりと感じさせるところにある。そのファンタジーとリアリティを巧みに織り交ぜた構成だと感じた絵本に,最近出逢った。メルヘン的な絵本を何冊も出している絵本作家・いまいあやのさんの『めぐる森の物語』だ。
表紙の絵が魅惑的な雰囲気を漂わせている。晩秋の気配のなか,野辺の木の葉はほとんど落ちている。その木の傍に,口に小さな手提げ袋をくわえた野ウサギが座っていて,こちらをじっと見ている。手提げ袋には,何かがいっぱい入っている。まさにメルヘン的な不思議な情景だ。《何が始まるんだろう》と思う。茶系の穏やかな色調が,読む者の気持ちをやわらかく包んでくれる。
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