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私の医師としての原点は東洋一長い病院として有名だった当時大阪中之島にあった阪大病院,私の循環器内科医としての原点は歓楽街北新地ほど近くにあった桜橋渡辺病院である.桜橋渡辺病院は100床強の個人病院ながら,今考えると驚くような人材の坩堝であったと思う.心カテの師匠は藤井謙司先生と東野順彦先生,今もなお現役のカテ師である.私の隣では伊藤浩 岡山大学循環器内科教授が外来をしておられたし,非常勤の病理担当医は大阪市立大学病理学 上田真喜子教授であった.諸先輩方はまだ30代の知力も体力もあふれる年代であり,私の同期には綿田裕孝 順天堂大学代謝内分泌学教授,王英正 岡山大学病院再生医療部門教授がいてお互いに切磋琢磨をしていた.このような環境でいつも言われてきたことが「物事を丹念に観察して根本から考える」ことの大切さだった.心電図はアクションポテンシャル,冠動脈造影は解剖学,心不全は生理学,動脈硬化・心筋梗塞は病理学から考えることが当たり前のように教えられてきた.一方私の母教室はレニン・アンジオテンシン(RA)系研究のメッカだったので,自然と「RA系とヒト動脈硬化」がライフワークとなった.
RA系を勉強すればするほど生き物の仕組みのおもしろさに出くわす.太古の昔,海に住む魚類が陸上生活を営むために必要な海水ボンベとして造られたものがRA系である.この海水ボンベは実に多機能を備えている.海水内では傷がすぐに食塩水で消毒できるが,陸上ではそうとはいかずに細菌感染を引き起こす.したがって傷口を早くふさぐ必要があるが,RA系の生理活性物質であるアンジオテンシンⅡは非常に強力な細胞増殖作用を有しており,創傷治癒に有利に働くことは明白である.また,アンジオテンシンⅡは強力な血管収縮作用を有するだけでなく,副腎に働いてアルドステロンを分泌させて体液・塩分貯留をさせることで出血時の対応に非常に有利に働く.また,アンジオテンシンⅡは腎臓でのエリスロポエチン産生を刺激することが知られている.まさに,マンモスがいた頃に狩りをしている人間達を想像する.RA系は狩りをするための仕組みでもあるのだ.アングロサクソンは狩りをするのでRA系が亢進しており,RA系阻害薬の降圧効果が高く,日本人は海の魚を相手にしていたのでRA系亢進が十分でなく,腎臓での食塩感受性が亢進していると考えると何となく納得できる.
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