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はじめに
米国の証券会社リーマン・ブラザーズの経営破たんが引き金となった金融危機が,厳しく深刻な財政危機を招き,いま,世界に急速に広まっている。そのことがさらに国際競争を一段と厳しくし,市場の環境変化も著しく複雑なものにしている。これらは経済環境だけの問題にとどまらず,私たちが働いている医療界にも影響を及ぼしている。それに加えて,2000(平成12)年以降,日本の医療は急激な変化にさらされている。「世界の基準」が「日本の基準」と考えることが当然になり,競争原理を好むと好まざるにかかわらず取り入れていくしか存続していく道はなくなっている。近隣の病院と比較しているだけでは解決せず,「何かおかしいな」と思っても立ち止まれないうえ,少子高齢化が一段と進み,非常に厳しい状況に陥っている。
そのようななか,先の診療報酬改定で7対1入院基本料が新設された。1988(昭和63)年に特3類(2対1,現在の10対1)が施行されてから18年という長い年月を経て,ようやく看護配置7対1(旧1.4対1)の看護体制が導入されたことを筆者は単純に喜んだ。しかし,日本中の病院に“7対1”取得のための「看護師争奪戦」という大激震が走った。
筑波記念病院(以下,当院)は新設された7対1入院基本料を2006(平成18)年4月に取得したが,当初から病院に経済的効果をもたらすことは十分認識していた。しかし,あれほどまでに大きな社会問題として日本中に拡大しようとは予測していなかった。
当院ではすでに手厚い看護を提供するために,多くの看護師を配置し,教育体制を整え,新人が離職しない看護部をつくり上げてきていた。7対1制度導入後,多くの病院の看護管理者から,「なぜ7対1がとれたのか」「どうしたら看護師を確保できるのか」「どうしたら離職防止ができ,看護師の定着が図れるか」「どのような管理をしているのか」と聞かれることが多かった。
2006年11月に開催された,NPO日本医学ジャーナリスト協会のシンポジウム「患者の安全と看護のいま――医療の現場から」にシンポジストとして参加したときも,新聞記者から,「新卒看護師の離職率が6年間ゼロというのはすごいですね! どのような管理をしているのか,もう少し詳しく聞きたい」と言われた(現時点で新卒看護師離職率は8年間ゼロ)。
そのことを契機に,自らの看護管理について,もう一度振り返ってみたいと強く思った。いつの時代も,看護管理者における「永遠の課題」は看護師確保である。そして,少子化が進行するなかでさらに状況は深刻になっている。ここでは,当看護部が看護師の育成に重点をおきながら,働き甲斐のある職場風土をどのようにつくってきたかを述べる。別稿で,小川紀子看護師長から理論を現場に活かす訓練をどのように実施してきたかを,生活支援技術については担当責任者の太田和子看護師長から,効果的なプライマリナーシングに看護師長がどう関わっているかを大森美保副看護師長,病棟でどのようにプリセプターシップの教育をしているかを安達さゆり副看護師長に報告してもらう。今回,筆者が行なってきた管理の方向づけと実践などを述べることで,「看護師にとって魅力的な職場環境をつくりあげる看護管理者の役割」の一端が見え,看護管理上のヒントになれば幸いである。
表1に当院の取り組みの歴史と,筆者の取り組んできたことを示す。
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