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はじめに
横浜市大患者取り違え手術事件の一審・控訴審判決から,患者の取り違えが起こり得るという潜在的危険に対する認識の低さと,その危険性に対する防衛手段が存在していなかったことが明らかになった。この事故に関わった医療チームのメンバーのうち数人が,患者を取り違えているかも知れないという何らかの疑いをもっていたにもかかわらず,きちんと患者確認をしないまま手術を行なったことが,重大な事故を発生させる大きな要因であった。
また,個人の確認の仕方に加え,チームメンバー同士の確認の仕方(コミュニケーションのとり方)についてのチーム医療としての連携不備が問われた裁判であった。
一審では,当時の病院の管理体制は事故の根本原因とは言えず,患者搬入の前と後では同一性の確認が困難であるとして,患者取り違えのきっかけをつくった手術室看護師に最も重い責任が課せられた。しかし,控訴審では,病院の管理体制の不備を重視し,患者の身体に侵襲的な処置を加える医師と看護師それぞれが役割遂行するなかで「確認義務」があると判断し,起訴された全ての者が罰金刑になった。この結果は,手術室看護師の責任が他の医師,看護師と同等と判断され,チームの共同責任が強調されたような印象を受けがちだが,看護師個人の責任が軽くなったわけではない。思い込みや誰かが気づくだろうという安易な期待をもって患者を引き渡した手術室看護師や,患者の同一性確認を怠った医師らの行為を,判決文から読んでみると,病院の管理体制を整えることは重要だが,やはり,医師,看護師,個人としての責任や事故に対する認識をいかにもち行動できるかが重要であるということに気づかされる。
そこで,一審・控訴審判決をもとに,(1)エラーを防ぐためのシステムづくりにおける看護師の役割,(2)手術室看護師の患者同一性確認義務と倫理的視点,(3)手術に関わる相対的医行為に対する看護師の責任について,システムと個人の両方に焦点を当てて考察し,周手術期における手術室看護師の専門性について考える。
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