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はじめに
私たちは一般に人の性格にはいくつかの際立った特徴を持つものがあり,それによりある程度の分類ができると考える傾向にある。それに従ってパーソナリティ障害(personality disorder:PD)のいくつかの典型的なタイプを考える立場がいわゆる類型モデル(type model)で,古くはKretchmer EやSchneider Kの分類が知られていた。1980年のDSM-Ⅲに掲載された10のPDの分類も同様のモデルに従ったものであり,最新のDSM-51)にもそのまま引き継がれている。それらは行動上の特徴,感情体験の特徴,思考の特徴から大まかな三つのクラスターに分けられている。
この類型モデルとは別に,人格がいくつかの特性により構成されるものとみなし,それぞれの量的な組み合わせとして人格を表すという,いわゆる特性モデル(trait model)が存在する。DSM-5の準備段階では,類型モデルに代わってこの特性モデルに従った分類が掲載される公算が強かった。そこでは否定的感情,離脱,対立,脱抑制,精神病性の5つの特性が挙げられた。しかし結局はこの特性モデルは巻末の「パーソナリティ障害群の代替モデル」として収められ,従来の類型モデルが維持された。他方2018年に発刊されたICD-11におけるPDはこの特性モデルに基づき大幅に全面改訂されている。
このようにPDの診断基準はICDとDSMで大きく分かれた形となっているが,この矛盾はPDを臨床的に用いることに特有の難しさを反映しているとも言える。人は他人の性格を一種のラベリングにより識別するところがある。それは大雑把で独断的でありながら,患者の特徴抽出には欠かせない部分がある。他方の特性モデルは,人の性格をより正確に描写することに適してはいるものの,直勘的には捉えどころがなく,その人の全体的な印象を的確に伝える力に乏しいと言えよう。
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