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健康課題と社会構造の転換が要請するケアイノベーション
少子・超高齢社会を迎え,「治す医療」から「支える医療」への大転換が求められている。健康寿命の延伸のために,国民の生活の困難性を緩和し,国民が自律的に暮らすことのできる“ケア”社会の実現が課題である。世界も未体験の人口構造のもと,グローバルに多様化する社会における“ケア”社会実現のためには,“ケア”の中核を担う看護学が,新たな分野を学として築くことが必須といえる。従来看護学が沿ってきた対象別分野は,臨床実践者養成(対象理解とケア実践)のための構造であり,「支える医療」を学問として構築するための構造にはなっていない。
少子・超高齢社会の看護学が中核を担う“ケア”を体系化するためには,異分野融合型イノベーティブ看護学研究の推進が必要である。平成26年に公表された提言書「ケアの時代を先導する若手看護学研究者の育成」では,急激に変わりうる社会において看護学が役割を果たすためには,次世代の看護学研究者の養成が急務であり,異分野との融合的な研究が求められていることが明確に示されている(日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会,2014)。特に,「ケアイノベーションを先導できる若手看護学研究者育成をめざす異分野融合研究・教育環境の醸成」が必須であり,そのためには看護学を基盤に置き,他の学問体系,例えば生体工学や分子生物学,情報工学や政策科学など,これまで必ずしも領域を越えて十分に協働がなされてこなかった分野との融合がキーワードとなっている。そして異分野融合研究を推進するために必須となる人材育成の強化も,併せて強調されている。すなわち,若いうちから異分野融合研究を行ない,基盤的な研究から,最終的には実用化・制度化を見据えた長い視野での研究を実行できる研究体制の盤石化である。また,そのための産官学連携の重要性についても述べられている。さらに,世界に類をみない少子・超高齢社会を経験するわが国において,日本の看護学の発展が,世界の看護学を先導することも夢ではない。そのためには,医療全体における看護の価値を示す研究,すなわち政策研究は必須となる。さらに新しい日本独自の看護学の理論構築は,少子・超高齢社会に生きる人々にとって大きな福音をもたらすであろう。
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