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はじめに
本稿は,科学研究費助成事業の補助を受けて2020年4月より5年間をかけて実施する「看護研究における混合研究法教育用ガイドブックの開発とeラーニングの構築」註1について,その概要と意義を紹介するものである。本プロジェクトの詳細および結果については,今後学会・論文を通して発表する予定である。
2015年4月の日本混合研究法学会発足以来,早いもので6年の歳月が流れた。6年前と現在の大きな違いは,混合研究法(mixed methods research)とはどのような研究アプローチなのかという定義について,より多くの研究者が共有するようになってきた点であろう。例えば,2015年9月に開催された第1回日本混合研究法学会(JSMMR)/国際混合研究法学会(MMIRA)アジア地域会議においては,質的研究のみの報告が演題募集の際に送られてくることもあった。また,量的・質的両方のデータ収集・分析を行なっていても,それらを統合するといった観点がまったくみられないものも少なくなかった。このことから,JSMMR発足時は,混合研究法とは何かについて多様な見解が収斂しないまま存在していたことがわかる。
この6年間で,上述した状況は大きく変わったと筆者は実感している。特に看護研究者の間では,混合研究法とはどのような研究アプローチで,量的・質的研究のいずれかを単独に行なう研究とどのように異なるかについての認識が着実に伝播されつつあると感じている。混合研究法の日本語による書籍(例えば,Creswell, 2015/抱井訳,2017;抱井2015;抱井,成田編,2016;Teddlie, & Tashakkori, 2009/土屋,八田,藤田監訳,2017)が2015年以降続々と出版されたことや,主としてJSMMR主催によるセミナー,コロキウムといった研究会,年次大会の際に提供されるワークショップが,この流れの背景にはあるものと思われる。また,筆者が所属する青山学院大学においても,2015年と2019年に著名な混合研究法エキスパートを招聘し,大規模なシンポジウムやセミナー,ワークショップを開催している。このような学術イベントも,混合研究法の日本における浸透を加速する一端を担っていると考える。
一方で,多くの看護研究者から聞こえてくるのが,実際に混合研究法を用いて研究を試みようとするとき,具体的にどのような手続きを踏んでよいのかわからないという戸惑いの声である。混合研究法とはどのような特徴をもった研究アプローチであるかについて,漠然としたイメージはあるものの,実際に具体的な研究に落とし込むと,どのような順序で何をするべきかがよくわからないという悩みである。特に,混合研究法の核とされる「統合」において用いられるジョイント・ディスプレイ註2については,その具体的な作成方法を知りたいという看護研究者が少なくない。こうした看護研究者のニーズに応えるべく,本研究プロジェクトが誕生した註3。
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