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はじめに
連載第3,4回では,混合研究法の定義と特徴を示した上で,混合研究法独特の調査手続きについて概観した。混合研究法の理論化が本格的に始まってから四半世紀が過ぎようとしているが,その歴史はいまだに浅く,現在も発展途上にあることはすでに述べてきた。年々,分野を牽引するリーダーたちによって出版された混合研究法関連の書籍も数を増し,混合研究法を用いた研究(MM研究)の発表の場として用意されたJournal of Mixed Methods Research(JMMR)も,2007年の創刊号から第9巻(年4冊発行)に達している。その他,研究法関連のジャーナル,医療・看護をはじめとする医療系ジャーナル,教育系ジャーナルといった多くのジャーナルを通して,MM研究の実践例が確実に蓄積されてきている(Ivankova & Kawamura, 2010)。
MM研究の実践例が増えていく中で,研究のあり方も,ますます創造的かつ複雑になってきている註1。混合研究法の理論的体系化が開始された当初,MM研究デザインは大きく分けて三つの類型に分類されていた。それらは,①質的・量的データ収集および分析を並行して実施する並列的デザイン,②どちらか一方のデータ収集・分析を,もう一方のデータ分析の結果に基づいて実施する順次的デザイン,そして,③主となる研究アプローチの中で,もう一方の研究アプローチが補足的に用いられる埋め込みデザインである(図1)。後にも詳述するが,現在においても①と②については,一部呼称に変更があるものの,MM研究デザインの基本型として位置づけられている(Creswell, 2015)。
近年は,図1で示したようなデザインがそのまま当てはまるようなシンプルな研究例が少なくなってきている。連載第4回でも触れたが,これは,書籍で紹介されるようなデザインの類型化はあくまで論理的発想の域を超えないものであり,実際の研究実践においてデザインは,その目的によって,より流動的で複雑(Bryman, 2006)にならざるを得ないことに起因する。クレスウェル(Creswell, 2015)は,デザインが研究の計画註2・実施過程で変化していく可能性や,研究目的によっていかようにも複雑になり得ることを認めた上で,シンプルなデザインから開始することが,研究目的とデザインの関連を理解する上でも有益であることを指摘している。
研究のあり方が,既存のデザインの類型に縛られてパタン化されてしまうことは問題である。とはいえ,混合研究法の書籍で紹介されているデザインの類型とその特徴は,研究者が自身の研究を計画する上でも,研究報告書の読み手がMM研究を理解し評価する上でも,有用な役割を果たすという点は第4回連載でも触れたとおりである。特に,MM研究初学者にとっては,デザインの類型化は,複雑なMM研究のあり方をある程度パタンに分けて理解することを可能にし(抱井,2015),研究を実践する際には道先案内人としての役割を果たしてくれる。デザインの類型化がもたらす恩恵は,もちろん初学者のみに限られるものではない。このような知識は,MM研究経験者にとっては,より複雑な研究デザインに挑戦する際に,道に迷っても原点に戻れるよう軌道修正してくれる羅針盤のような役割を果たしてくれる。また,MM研究を評価する立場の者にとっても,たとえそれがどんなに複雑な混合研究法デザインであったとしても,当該研究における研究目的と質的・量的研究の統合方法との間の整合性や,用いられた質的・量的データの収集および分析方法の厳密性を評価する上で,参照可能な規準を提供してくれる。つまり,デザインの類型とその特徴に関する基本的な知識は,それらが論理的発想の域を超えないものであっても,さまざまな面から研究者を支援し得る有益なものであると結論づけることができる註3。
以上のことから,筆者は,クレスウェル(Creswell, 2015)に依拠し,混合研究法デザインの類型に基づく研究実践例の紹介を,本稿および次回の連載で行ないたい。これにより,研究設問の立て方から始まり,データ収集・分析・結果の提示までのそれぞれの段階において,デザインの類型により質的・量的研究の統合にどのような特徴や課題があるかを理解していただけるだろう。さまざまな研究事例に触れることはまた,MM研究の実施に関する多くの具体的なイメージを蓄積することにつながり,これらのイメージは,読者のみなさんが研究計画を立てる上で大きな助けとなると考える註4。
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