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はじめに
第5回では,混合研究法デザインの基本型とされる収斂的デザインと,順次的デザインのひとつである説明的順次的デザインの研究例を紹介した。第6回は,混合研究法の応用型として位置づけられる,社会的公正デザイン(変革的デザイン),介入デザイン(埋め込みデザイン),そして段階的評価デザイン(多層的デザイン)を紹介する。
クレスウェル(Creswell, 2015)が基本型デザインの一類型とする探索的順次的デザインは,前回の連載にて取り上げるものであったが,紙幅の関係もありこれを含めることができなかった。そこで今回では,社会的公正デザイン(変革的デザイン)の一例であり,探索的順次的デザインの例でもある研究を,これら二つのデザインの研究事例として取り上げる。社会的公正デザインは,マートンズ(Mertens, 2003;2007;2010)によって提唱された混合研究法を支える理論的枠組みの一つであり,変革の視座に基づくものである。社会の周縁に追いやられた人々を抑圧の現実から開放することを目ざすものであれば,どのような手続き的特徴をもったMM研究であっても,このデザインの例に含めることができる註1。近年,マートンズによるこの社会的公正の理論的枠組みを,混合研究法を用いた参加型アクションリサーチ(Participatory Action Research ; PAR)と関連づけて議論する傾向もある(例えば,Ivankova, 2014 ; Nastasi, Hitchcock, & Brown, 2010)。
その他にも,医療実践における臨床実験と,公衆衛生学の領域で策定・実施される健康増進プログラムの評価研究に代表される介入デザインと段階的評価デザインが混合研究法デザインの応用型とされている。これら二つのデザインは,いずれも保健医療研究に深い関連をもつものだが,これはデザインの類型化を提案した,本連載が依拠するクレスウェルによる著書(Creswell, 2015)が,彼がハーバード大学の公衆衛生大学院で行なった講義ノートに基づいていることに依る。
今回も前回同様,それぞれの研究例を,①研究の背景,②研究の目的・研究設問,③データ収集と分析,④結果の統合という四つのポイントに着目してまとめる。そして,混合研究法という観点から筆者が強調したい研究における注目ポイントを,最後に列挙する。
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