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人生や生活についてストーリーを「物語る・語る(telling)」ということは,私たちにとってあまりに本質的で基本的であるため,その重要性に気づいていないことが多い。私たちは「ストーリー」という形で考え,話し,そして人生を意味づける。自分の人生の断片についてのストーリーを友人や見知らぬ人にでさえ語る。人生について語るストーリーには,不朽のテーマや普遍的なモチーフがあり,それは,私たちの内面の真実について何世代にもわたり語り継がれてきた何千もの民話や神話や伝説のバリエーションの1つである(Narayan & George,本書訳注1)39章参照)。このようにストーリーは私たちを自分たちのルーツと結びつける。
昔の伝統的な社会において,ストーリーは人々の生活の中核的な役割を果たしていた。そのストーリーが人生における時間を超越する要素を伝えるとすれば,それは完全なるストーリーなのである。長い間語られ続けたストーリーには人生の教訓や不朽の価値観が包摂されており,そのようなストーリーは,不朽かつ普遍的なパターンをもつ。それらは,別離(separation),移動(transition),統合(incorporation)(van Gennep, 1960)という形,あるいは誕生(birth),死(death),再生(rebirth)(Eliade, 1954)という形,または出発(departure),行動(initiation),帰還(return)(Campbell, 1968)という形で表される。これらのパターンはいわば青写真のように計画されており,独自性があり,そのなかでストーリーは対抗する事象間のバランスをとっている。実際,これらのパターンはストーリーの構想の基礎を成し,そうあるべき過程に沿って,ストーリーの要素を語り手が覚えておくのに役立つ。
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