Seminar Report for NR
「ライフストーリー・インタビューの意義と方法」に関するセミナーを開催して―“私たち人間は物語る種(storytelling species)である”
黒江 ゆり子
1,2
1岐阜県立看護大学
2岐阜県立看護大学大学院
pp.204-205
発行日 2013年4月15日
Published Date 2013/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681100768
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“私たち人間は物語る種”であるとR. アトキンソン氏が著すように(黒江ら,2011),古来より私たちは毎日の出来事を身近な人々に語り,自分の中で振り返り,思いを他者に伝えて生きてきた。同様に,他者の語りに耳を傾け,他者に起こった出来事を知り,その意味を考え,その人の感情に気づき,受け止めながら毎日の生活を送ってきた。それは古代には洞窟の中で,近代には暖炉や囲炉裏などを囲いつつであったであろう。語ることは人間にとって難しいことではなく,内面から湧いてくるものを自然に外在化する行為であり,それによって今日や明日をどう生きるかを知ることができ,かつ自分を取り巻く人々との交流ができる楽しい時間と空間だったのである。
すなわち,現代に生きる私たち1人ひとりの中にも,自分に起こった出来事を他者に語り,自分の思いを伝え,他者の経験や思いを聴く“力”が本来的に備わっているはずである。それは生きる力へとつながり,自分の語りに耳を傾けてくれる他者の存在を経験してこそ可能になる。現代社会においては,自分や他者の思いに近づくことに困難を感じる人々が少なくない。人と人が直接話をしなくても生活できるような現代の社会の仕組みがそうさせるのか,多様なコミュニケーション手段があるからなのか,おそらく明快な答えはないだろう。であるならば,私たちは自分たちが本来もっている力――語ることと聴くこと――に気づき,それらを自然の姿で発揮することに思いを馳せる必要がある。
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