連載 今月のニュース診断
格差問題と健康格差―幸福のパラドックスを招かぬように
田倉 智之
1
1東京女子医科大学大学院先端工学外科学分野専攻
pp.440-441
発行日 2007年5月25日
Published Date 2007/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665101009
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格差が争点に
現在の政権は昨秋の発足時に「成長なくして日本の未来なし」を旗印に掲げ,人口減にうちかつためにも構造改革を推し進めて経済成長を高めると宣言している。目玉は主に低所得層の生活水準を引き上げるための「成長力底上げ戦略構想」であり,そのなかで“格差問題”が大きな議論となっている。このようななか,互助と競争のバランスが政策の争点となりつつある(格差問題:賃金増vs生産性向上,毎日新聞,2007年3月2日,東京版朝刊)。この格差問題について,医療システムとどのような関わりがあるのか,という観点から整理を試みたい。
巷を騒がす格差問題は,格差社会による弊害を指しており,国民の間の格差(主に経済格差=所得格差・消費格差・資産格差)が顕在化した社会が生み出す課題のことをいう。とくに,バブル崩壊後の格差拡大(所得格差)が問題視されている。背景には,企業などが国際競争力を維持するため,リストラと同時に人事の改革に着手し,年功序列的な賃金の廃止や正社員の非正規雇用者への置き換えを進めたことが挙げられる。その結果,成果主義賃金の導入で高給を得るビジネスマンが出現するとともに,不安定な雇用状況のなかで低賃金労働者が増えて格差が拡大し,社会全体に歪みが生じて調和のとれたシステムを維持できなくなることが問題にされている。
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