ちょっとサイエンス
カルシウムパラドックス
牧 智子
pp.82
発行日 1993年1月25日
Published Date 1993/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611900734
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◎細胞の中のカルシウム
前々号のこのページで,私たち陸上生活者にとってカルシウム不足は宿命だと書きました。カルシウムたっぷりの海を出て,陸上生活を始めてしまったがゆえに,カルシウム不足に悩まねばならなくなった,と。そのかわり,私たちは骨の中にカルシウムをためこんで,必要に応じて引き出せるようなメカニズムをもっているということも書きました。引き出すときに使われるのが副甲状腺ホルモン。また,血液中のカルシウム濃度が高くなりすぎたときに余分のカルシウムを骨に閉じ込めるのがカルチトニン。この両方がうまくバランスをとって私たちの身体のカルシウム濃度はコントロールされているのです。
ところで,血液の中に含まれるカルシウムはほんのわずか。さらに細胞の中となるとわずかしか存在しません。骨のカルシウム量を1とすると,血液のカルシウムはその1万分の1しかなく,細胞の中にはそのまた1万分の1しかないそうです。つまり,細胞には骨の1億分の1しかカルシウムが含まれていないのです。そんなにわずかの量しかないカルシウムですが,私たちの身体の中ではなくてはならない働きをしています。わずかしかないから,少しの変化で大きな力を生み出せるということです。
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