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歯科疾患は改善していることが強調されることが多いが,これには2つの問題が存在する.1つは,歯科疾患が世界で最も多い疾患であり,減少してもなお人々や社会への負担が非常に大きいことへの注目を妨げてしまうことである.WHO(世界保健機関)などの「2010年世界の疾病負担研究(The Global Burden of Disease 2010 Study)」では全291疾患中最も有病率が高かったのが永久歯の未処置う蝕,6位が歯周病,10位が乳歯の未処置う蝕であった1,2).日本においても学校保健統計調査で最も多い疾患であるなど有病率は高く,歯科疾患の高い有病率は,例えば65歳以下の国民医療費では歯科医療費が癌や高血圧や糖尿病の医療費よりも多いことにつながるといった,社会への大きな負担になっている.そして個人への負担として,歯科疾患自体の痛みや不快感といったことの他,歯を喪失することは高齢者の会話を通した社会活動の低下を招き,全身的な健康も悪化させるなど影響は決して小さくはない.2つ目の問題は,平均的な歯科疾患の減少にだけ注目してしまうと,歯科疾患の健康格差の存在とその対策に目が向かなくなることである.歯科疾患は有病率が高い疾患であるため,格差も大きく,格差の存在自体が有病率の減少にブレーキをかけてしまう.
2011年に施行された「歯科口腔保健の推進に関する法律」に伴う「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」の1番目は「口腔の健康の保持・増進に関する健康格差の縮小」である.2013年からの国の健康施策である「健康日本21(第二次)」の基本的な方向の1番目は「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」であり,健康格差への取り組みの必要性が認識されつつある.ここでは,歯科疾患の健康格差とその対策について解説をする.
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