連載 りれー随筆・245
悲しみが教えてくれたもの
藤村 由希子
1
1岩手県立大学看護学部
pp.462-463
発行日 2005年5月1日
Published Date 2005/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100214
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忘れられない出来事
いまでも忘れられない出来事がある。思い出すと鼓動が早くなり,語ると自然に涙が出てくる。人間の心はどこにあるのか,とにかく身体の中のあちらこちらから心の悲鳴が聞こえてくる。
いまからおよそ8年前。私が新米助産師に終わりを告げる頃だった。ある日の午後,私は授乳指導を担当した。最初はぎこちなかった授乳指導も,その頃には考えなくても自然と言葉が出てくるようになっていた。その時,私は1人の新生児の様子がいつもと違うことに気づいた。何か元気がない。足を刺激しても,身体を揺すっても目を覚まさず,泣くこともない。さりとて顔色が悪いわけでもなく,哺乳をしないわけでもない。何か違和感を覚えながらも「寝ているのかもしれない。次の哺乳時間まで起きなかったら知らせてほしい」と母親に告げ,他の業務に移った。
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