連載 バルナバクリニック発 ぶつぶつ通信・13
悲しみをくり返さないための知恵
冨田 江里子
1
1St. Barnabas Maternity Clinic
pp.364-365
発行日 2005年4月1日
Published Date 2005/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1665100196
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涙の理由は……
その日は朝から忙しかった。午前の診療時間中にお産が3件あり,その傍ら病人の診療もしなければならなかった。産婦にベッドが占領されたので,野外で診療し,最後の患者を送り出したのは昼の3時を過ぎていた。クリニックのなかでは午前中に生まれた3人の赤ちゃんが代わりばんこに泣いている。
その声に混じって鼻をすすり上げる音が聞こえてきた。今まで忙しくて気付かなかったが,産婦に風邪を引いていた人がいたのかしら?と,お産の部屋に入ると,最初にお産をした22歳のレイナーが赤ちゃんを見つめ目を濡らしていた。レイナーは付き添いもなく1人きりで,しかもわずかな赤ちゃんの衣類だけを大切に抱えてクリニックに来た産婦だ。
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