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はじめに
厚生労働省が公表した2020(令和2)年の患者調査の概況1)によると、入院患者のおよそ4分の3は65歳以上の高齢者で占められており、医療現場では高齢者がケアの対象となる場面が多くなっている。それゆえ、保健医療の専門職には、高齢者に対する多面的な理解や尊厳を重んじる態度が一層求められる。一方、家庭や地域社会で異世代が関わり合う機会が減少していることなどを背景に、世代間で否定的なイメージを抱いていることが指摘されている2-4)。
高齢者観について、手島5)は「社会の中で生きる高齢者全般に対し、高齢者自身及び高齢者を取り巻く人々による高齢者の見方」と定義しており、老化についての知識の有無や、関わりの程度、時代背景、社会の価値観による影響を強く受けている5-7)。保健医療福祉の専門職者が持つ高齢者観は、将来高齢者を対象とした職場で働きたいという意志8)や専門職としてのケアの質9,10)にも影響しうる。
人々が持つ高齢者観のなかでも、エイジズムは、「高齢であることを理由とする、人々に対する系統的なステレオタイプ化と差別のプロセス」11)と定義されている。高齢者福祉施設の職員や看護学生の高齢者に対するエイジズムの測定やその影響要因に関する研究は数多く報告されているが6,12)、その対象はケアを受ける高齢者に偏っている。原田らは、エイジズムを高齢者に限定せず「年齢に基づくステレオタイプ・差別・偏見」と広義に捉え、高齢者の若年者に対するエイジズム尺度13)を開発し、若年者との接触頻度が低い者ほど、若年者に対して「視線を逸らす」「話しかけない」「一緒に過ごしたくない」といった「嫌悪・回避」因子の得点が高かったことを報告している4)。
世代間交流は、参加した高齢者と若年者のおのおのが持っていたイメージを変容させうる2,6)。近年、若年者における孤独感の高さ14)や自己肯定感の低さ15)が指摘される中、世代間交流には相互理解の促進2)にとどまらず、双方の精神的健康状態を良好に保つ可能性がある16)。しかしながら、世代間交流に内包されうるどのような要素が影響を与えているかについては定かではない。
保健医療の領域で行われる重度の障害を持つ高齢者に関する学習や実習は、対象者に限らず高齢者全体に対するエイジズムを弱めるという報告が多い6)ものの、一方で、むしろ強めてしまう可能性があることも指摘されている10)。そのため、看護学生が生まれ育ってきた世代特性を踏まえた高齢者ケアの教育方法が必要であると指摘されている2,3)。
そこで本調査報告では、保健医療職を志す大学生と、健康増進活動に参加する高齢者における、世代間の否定的態度の特徴を把握することを目的とし、多世代交流を取り入れた教育プログラムを開発する際の基礎資料とする。
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