教養講座・文化人類学 最終回
今後の文化人類学の研究
高橋 統一
1
1東洋大学
pp.44-48
発行日 1969年11月1日
Published Date 1969/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663908923
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
28.複合社会と人種関係
前に11・12章で人種と民族を取り扱った際に,前者が自然科学=生物学的(身体形質上の)分類概念であり,後者が人文=社会科学的(文化的)なそれであり,混同してはならぬと述べた。そして,今日の政治的にまとまった全体社会や国家では,この両者が一致する,単一の人種や民族で構成される場合がむしろ少ないことを指摘した。多人種・多民族社会=国家などとよばれるのがこれである。
英語ではマルティ・レーシャル(multi-racial,多人種)という形容詞でよばれているが,この場合のレーシャルは厳密に人種をさすのではなく,民族の意味をも十分に含み,むしろ民族により多くの比重がかかっていることが多い(たとえば,マレー人・中国人=華僑・インド人などからなるマレーシアをマルティ・レーシャル・ネーションと英語でよび,日本語で多民族国家というように)。このように,人種と民族を実際上,厳密に正しく使い分けるのはむずかしく,またそうするのはかなり面倒である。これは,人種と民族の不一致,つまりある人種がいくつもの民族に分かれていたり,ある民族がいくつもの人種からなっていたりすることがきわめて多く,両者が複雑に交錯していること,しかも政治的な全体社会がそれらを包括するかたちで存在すること,の反映である。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.