焦点 文化人類学的研究方法
解説
看護および医療における文化人類学的研究の方法
波平 恵美子
1
1九州芸術工科大学・文化人類学
pp.138-145
発行日 1990年4月15日
Published Date 1990/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1681900245
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はじめに
看護学の研究のために,あるいは,よりよい看護を行なうための方法の確立のために,文化人類学がどのように活用されうるかについて論じるのが,本論の目的である。
医療を対象として,文化人類学的方法論を用いて研究する領域を「医療人類学(medical anthropology)」といい,その中でも特に医療現場を対象にして研究を行なう場合,それを「臨床人類学(clinical anthropology)」という。いずれも医療を研究対象とするが,その研究結果を,医療現場で生じるさまざまな問題解決のための糸口とすることができる。ただし,研究者が初めから,問題解決を目的として研究するか否かは,それぞれの研究において異なる。たとえば,マーシャ・エリオット・フェルカーの「手術室におけるイデオロギー」(『医療の人類学』,海鳴社刊,に所収。原著は1983年刊)という論文は,臨床現場そのものを研究の対象としているが,単純な問題解決のための研究ではない。彼女は,手術室の設備や道具の配置,その中で働く外科医と看護婦の役割や行動からして,手術そのものは「世俗儀礼」であるという。その儀礼は,宗教的な儀礼がそうであるように,その社会の価値観や社会的関係をより凝縮された形で提示する。
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