誌上講座・5
文化人類学
高橋 統一
1
1東洋大学
pp.73-77
発行日 1969年3月1日
Published Date 1969/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906143
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12.世界の民族
文化人類学が文化とそれを担った人間を扱う学問である以上,人類文化をひとまず研究対象の単位としての個々の文化共同体に区分する必要がある。先にも述べたように,文化共同体=民族と考えてさしつかえないので,この作業は世界の民族区分ということである。それは,前項の人種区分で行なったような,何らかの分類規準が設定されなくてはならない。
生物的概念である人種の分類においては,身体形質が規準とされたが,文化的概念である民族では何を規準にしたらよいのであろうか。文化は一定の住民(民族)の生活の総体だから,文化を構成する諸要素は,知識(科学)・信仰(宗教)・言語・芸術・道徳・法律・慣習・経済をはじめ様々の物質文化(物的諸要素)をふくむ。このうち,どれとどれを重点的にとりあげるにしても,その比重のおき方に偏りが生じ不公平で,とても客観的な基準の組合せなどできそうもない。そこで,これら文化要素のうちで,文化の中核的な部分として,永い年代を経てもそう簡単には変化しないもの,いわば伝統的な文化特性(カルチュラル・トレイツ,culturai trait)をできるだけ恒久的に保持するものを以って,全体的な文化日録(カルチュラル・インベントリー,cultural inventory)を代表させる,という便宜的方法をとらざるを得ない。このようなものは一体,何であろうか。それは言語である。
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