連載 社会思想史の旅・12
市民社会の頽廃と実存主義
田村 秀夫
1
1中央大学経済学部
pp.37-41
発行日 1969年10月1日
Published Date 1969/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663908905
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
ヨーロッパの頽廃
「ヨーロッパ中にひろがる飢餓の混乱に,さらに多くの重大なものを加えなければならない。それはヨーロッパの体質がまったく変化したことをしめしている。ヨーロッパ全体が道徳の頽廃に精を出している。ところが,コペンハーゲンでは万事が小規模なものだから,私の観察と計算がそれを完全にマスターすることができる。……私は申し分のない標本を処理する医者のようなものだ。」
実存主義哲学の先駆者セーレン・キルケゴール(1813-55)は,1847年の日記でこのように書いている。彼が『現代の批判』において,熱情を失い,頽廃した社会を批判したのはこの年であり,同じ年に,マルクスは『共産党宣言』を執筆し,翌48年に発表した。それはヨーロッパ危機を告げる年であった。
Copyright © 1969, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.